結急車両更新の謎

 「見た目は同じなのに、加速するときの音が違う気がする」

 そう思った経験はないだろうか。実は、同じ見た目の電車でも制御装置やモーターが異なる場合があり、その違いが加速音の違いを生み出しているのだ。「音を聞いただけでどの電車がわかる」という鉄道少年が度々テレビに出演していることもあるが、その少年はおそらく制御装置やモーターの音を聞いて電車を判別している。

 それはともかく、「なぜ同じ電車に同じ装置を使わないのか」と疑問に思う人もいるだろう。結急側としても、メンテナンスが楽になるという意味では同じ装置に統一したいのであるが、必ずしも統一できるとは限らない事情もあるのである。

 画像の10系0番台電車。登場から20年ほど経過しているが、現在も津喜線や遠山原線の各駅停車で運行されている。この電車は、2010年代後半に制御装置の更新工事を行っている。それに伴い制御装置やモーターの「音」も変化した。更新前は「お化けインバータ」とも言われる「シュワー」という感じの加速音だったが、更新後は全く異なる音になった。

 ではなぜ、制御装置の更新工事を行っているのか。それは制御装置に半導体が用いられていることに関係する。そもそも制御装置というのは、文字通り電車の速度を調節するためのものではあるが、近年主流の「VVVFインバータ」は違う役割もになっている。

 結急電鉄の場合、基本的に電車を走らせるための電力は「直流1500V」とされている。昔の電車であれば、電化方式が直流なので当然直流モーターを搭載していた。しかし、直流モーターよりも交流モーターの方が効率がよいとされていて、できることなら交流モーターを採用したい……

 そこで開発されたのが「VVVFインバータ制御」という制御方式であり、かなりざっくり言うと直流の電力を交流電力に変換し、変換した交流電力で交流モーターを動かすというものである。結急電鉄の前身である両得電鉄では、1988年に登場した80系0番台から採用された。

 しかし、このVVVFインバータ制御装置には半導体が使われている。昔の電車のように壊れたら工場で治す、なんてことが場合によってはできない。半導体が使われている部分が壊れたら、その部品ごとメーカーに送らなければならない。そのサポート期間はメーカーによって異なるようだが、16年前後だという噂話もある。サポート期間を過ぎたら、場合によるがメーカーは部品の生産を終了するので、新しい部品が入手できなくなってしまう。そうなると、共食い整備をするしかなくなるわけだ。

 そこで、サポートの切れるタイミングでVVVFインバータを新品に取り替えようという考えが生まれた。

 VVVFインバータ黎明期に登場した80系0番台は、初期車の登場から15年が経過した2003年より、VVVFインバータの交換を伴う更新工事が行われている。新型のVVVFインバータに交換するメリットは、部品の枯渇を回避できるだけではなく、装置の小型・高性能化も行われていることから、電力消費量を削減できるというメリットもある。

 また、2012年度から2018年度にかけて行われた80系100番台の更新工事では、走行安定性を確保するため機器類の二重化が行われた。二重化により万一故障が発生した場合でも、別の装置によりそれをバックアップできるというメリットがある。

車両更新の手順

 かつての車両更新は、車体の改修やリニューアルが主だった。しかし、近年は最初からバリアフリー対策を行った車両が更新時期を迎えていたり、前述の通り制御装置の寿命が短いこともあり、制御装置など一部装置のみを更新することが多い。

 両得電鉄の車両更新手順は、同じく多くの車両を保有するNR今北のやり方を参考にしている。例えば、更新工事の内容を減らすことにより、あまり大規模な改造ができない工場でも更新工事を行えるようにしている。また、内装は元々完成度が高い場合が多いので、極力そのままにしている。

 更新工事の対象となるのは、制御装置のサポートが切れた車齢16年~20年程度の車両である。2018年時点で対象となっているのは、80系50番代、10系0番代などだ。

 これらの車両は各所にある車両工場で更新工事を行う。機器更新のみの場合は規模が小さい工場で行うこともあるが、車両の転用工事を行う場合は三城や草深の総合車両センターで行うことが多い。2006年から行われたいた80系0番代の更新工事では、余剰中間車を先頭車化改造する工事が行われることもあった。近年はドア配置の都合で中間車の先頭車化改造は行われていない。

コラム ドア配置

 近年両得電鉄に導入された車両は、先頭車のみ一部箇所のドア配置が異なっている。それは車内の座席配置で例えるとわかりやすいのではないかと思う。中間車の場合3−7−7−7−3という座席配置であるが、先頭車は乗務員室−6−7−7−3という座席配置だ。乗務員室後ろだけが6人がけなのは、乗務員室の奥行きを広く取っているからである。

 近年の改造技術をもってすれば、ドアを移設して本来の先頭車にドア位置を合わせる改造は可能である。しかし、改造には時間がかかるため、それなら新車で置き換えた方が楽なのだ。

 工場に入場した車両は、VVVFインバータ制御装置を最新型に交換。また、ドアエンジンなどそれ以外の装置も一部交換される。また、2018年からは車内のLED表示器を小型LCDに交換する工事も行われている。小型LCDは元々付いていたLED表示器のサイズに合わせてあり、情報伝達回線もそのまま流用が可能。ただ交換するだけで情報表示量を増やせる。

 更新工事が完了すると、車両は試運転を行った後、元の路線、あるいは転用先路線で再び運行される。

 両得電鉄やNR今北の車両更新工事は、他の鉄道で行われている工事よりも小規模といわれるが、これは効率を追求した結果である。通勤電車は一人当たりの客単価が低い。そのため、更新工事の期間を出来るだけ短くして、すぐ本線復帰できるようにした方が良い。

 特に規模が大きい鉄道の場合、少しのロスでも積み重なって大きなロスに繋がる。両得電鉄やNR今北は、規模が大きいからこそ、時間や費用などのロスに対して厳しいのだ。


※当ページの内容はフィクションです。

当ページ最終更新日 2022年09月03日

当ページ公開開始日 2018年09月03月